2020年3月、長野県内で4番目、全国では57カ所目となる国定公園、中央アルプス国定公園が誕生しました。希少な氷河地形や動植物を次の代に受け継いでいくためにも、知っているようで意外と知らない中央アルプスについて少し学んでみようと、地元で地質学の研究をしている下平眞樹さんにいろいろお話を聞いてきました。
#中央アルプス #千畳敷カール


中央アルプスは何でできているの?
中央アルプスは主に花こう岩からできています。特に千畳敷カール一帯は地下の深いところでマグマがゆっくりゆっくり冷えて固まった深成岩の木曽駒花こう閃緑(せんりょく)岩、通称「木曽駒花こう岩」からできているのです。
イラスト左は木曽駒花こう岩のイメージイラスト。乳牛の模様のような暗色片(マグマが取り込んだ岩片)が多く入っているのが特徴です。右の写真は木曽駒ヶ岳周辺に見られる大きな岩石。その他、カール(圏谷・けんこく)やモレーンなどのさまざまな氷河地形も中央アルプスでは目にすることができます。
中央アルプスはいつ、どうやってできたの?
中央アルプスの基盤となっている木曽駒花こう岩ができたのは、約7000万年前。恐竜が生息していた中生代白亜紀のことと考えられています。
① 地下数kmでマグマが冷えて固まり、木曽駒花こう岩を形成した様子。
② 約80~70万年前に伊豆半島の衝突により、南アルプスが隆起し、中央アルプスの下にもぐりこむように押し上げ、地下から絞り出されるように急激に隆起した様子。
その後、この地帯全体の上昇が起こり、地下数kmにできた花こう岩を覆っていた地層や岩石が削り取られながら地表に露出しました。そして80~70万年前になると南アルプスに押し出される形で、中央アルプスは急速に隆起、上昇します。
その結果、3,000m級の高山となった中央アルプスは、約6万年前と約2万年前に大きく発達した氷河によってさまざまな氷河地形を造り出されたと考えられています。
③ 6万年前の最終氷期・寒冷期には山頂部からしらび平まで氷河で埋め尽くされていいた様子と氷河により氷食谷の中御所(なかごしょ)谷が形成された様子
④ 2万年前の氷河は、6万年前の約1/6の大きさ。千畳敷カールやカール内のモレーンはこの時期に形成されましたと言います。
⑤氷期が終了。氷河がなくなりカール壁の斜面崩壊や地すべりなどが発生し、島田娘などの雪形が形成さレ多様子。
中央アルプスで見られる代表的な氷河地形を知ろう
氷河とは、降り積もった雪が圧縮され成長してできた氷の塊「氷体」が、重力や自重によってゆっくりと流動しているもののことをいいます。ヒマラヤやキリマンジャロなど山岳地に形成される山岳氷河と、南極大陸やグリーンランドのような広大な面積の大陸氷河があります。
もっとも新しい氷期=最終氷期(約11・5万年前~1・17万年前)のうち、約6万年前と2万年前には日本にも氷河が発達していました。氷河の働きによってできた地形を「氷河地形」といい、中央アルプスは氷河地形を見られる貴重なスポット。その代表例を紹介します。
【カール(圏谷)】
千畳敷カールのイラスト。私たちが一般的に読んでいる千畳敷カールは、正確には北側の千畳敷カールと、南側の極楽平カールが並んでいます。イラスト内のアレートとは氷河の侵食でできた鋭いやせ尾根のことです。
氷河地形の代表格「カール」は氷河の侵食作用によりできた半椀状の地形です。
山頂付近の氷河はゆっくりと流動しながら山肌を削り取り、半円状の谷を形成します。氷河があるうちはその形はわかりませんが、氷河がなくなるとその形が現れます。急峻なカール壁と平坦なカール底が特徴です。
中央アルプスには、千畳敷カールをはじめ、極楽平カール、濃ヶ池カール、摺鉢窪カールなど、いくつものカールがあり、これらは約2万年前に発達した氷河により造られた地形といわれています。
【モレーン】


モレーン(堆石・氷堆石)のでき方のイメージイラスト
モレーンとは氷河が山肌などを削りながら運んだ岩くずが堆積した堤防状の地形のことです。千畳敷カール内にはいくつかのモレーンが確認されており、駒ヶ岳ロープウェイの千畳敷駅はモレーンを削った上に造られています。モレーンの前にはくぼ地や池ができることがあり、濃ヶ池はそうしてできた氷河湖ですが、現在は水位が下がり消滅の危機にひんしています。
【氷食谷(ひょうしょくこく・だに)】
谷のでき方のイメージイラスト
氷食谷はカールと同じように氷河の侵食によって山腹を削ってできた幅の広い谷のことで、U字谷ともいいます。
中央アルプスには、千畳敷カールと極楽平カールの下流にある「中御所(なかごしょ)氷食谷」をはじめ、三ノ沢カール群下流の「伊奈川氷食谷」、駒飼(こまかい)ノ池カールを源流部とする「黒川氷食谷」などがあります。これらは約6万年前に造られたと考えられています。
【その他の地形】


【グナマ】
花こう岩の表面に丸くきれいにあいた風化穴を「グナマ」といいます。これは岩のくぼみに溜まった水が、凍ったり溶けたりを繰り返すことで、穴が拡大したものです。中央アルプス・中岳山頂付近の花こう岩などで見られます。
【ペイブメント】
岩石が敷石のように上面が平坦にそろった地形のことです。雪や氷の重みで圧迫されてできたと考えられていますが、実は詳しいでき方はわかっていないそうです。
日本でこのペイブメントが認められたところはとても少なく、中央アルプスは希少なエリアです。※中央アルプスのペイブメントは立入禁止区域にあります。
中央アルプスの絶景も、こうした地質学の観点から見てみると、何万年という時間を経てこの姿を造り出された自然美であることがわかってきます。太古の自然が作り出した今の姿と当時の名残を感じながら、中央アルプス登山を眺めてみれば、また違った視点で楽しめそうですね。