本坊酒造のマルス信州蒸溜所は1985(昭和60)年、中央アルプス駒ヶ岳のふもと、標高798mの宮田村の地に開設されました。2020(令和2)年、ビジター棟が新築、ウイスキー蒸溜棟も一新されました。工場見学をしていきませんか。
伝統あるポットスチルで蒸留されるウイスキー
広い駐車場に車を停めて外に出ると、爽やかな風がほほをなでていきます。敷地の入口にはマルスウイスキーの父、岩井喜一郎が設計した初代のポットスチル(ウイスキーの蒸溜釜蒸えて展示されているのが見えます。清々しい空気に包まれるビジター棟とウイスキー蒸溜棟を見上げると、奥には中央アルプスが青空にその稜線を浮かびあがらせています。まずは歩いて奥にある蒸溜棟へ。
ここでは、国内のみならず、世界にファンを持つ名だたるウイスキーを蒸留。糖化槽、発酵槽などさまざまな蒸留設備がそろっており、糖化や発酵、蒸溜というウイスキー造りの工程がここで行われています。見学ではビデオを見たり、案内板の説明でウイスキー造りを学ぶことができます。また、ふわりとウイスキーの香りが漂う貯蔵庫では熟成を重ねる原酒の樽が見られます。
クリーン&リッチな味わいを目指して
マザーウォーターと呼ばれる仕込み水には、中央アルプスの雪解け水がゆっくりと花崗岩質土壌に濾過された地下水を使用。ミネラル分が少なくやわらかな軟水は蒸溜所ならではの味わいを生み出すだけでなく、蒸溜の冷却水にも使われています。
麦芽はイギリス産の良質なものを厳選。スモーキーなピートの香りがないものをメインに数種類を使い分け、昨年からは伊那谷産の麦芽も使い始めています。
ポットスチルによる蒸留は、初溜と再溜の2回。麦汁を発酵させたモロミを蒸留し、アルコール度数約70%に凝縮させます。再留釜から出てくる蒸留液の中間、香りの良い部分だけを集めます。30秒ごとに香りや味を確認して前後のカットを決めているそうです。
出来上がった透明な蒸留液は、樽に詰められ最低でも3年は熟成。長い年月を超えて、琥珀色に変色し、まろやかな味わいと豊かな香りをもつ原酒が誕生します。

世界に名をはせる世界最高賞を受賞
バーのテラスに吹く爽やかな風を感じながら、シングルモルト駒ヶ岳のロックを飲む至福のひととき。マルスウイスキーは1949(昭和24)年に鹿児島で誕生、80年代の地ウイスキーブームの火付け役にもなるほど人気を集め、マルス信州蒸溜所が誕生しました。けれどウイスキー需要の低迷により1992(平成4)年から19年間、蒸留を休止していたことがあります。
2011(平成23)年に蒸留を再開、2年後には、「マルスモルテージ3+25 28年」がイギリスで開催された世界有数のウイスキコンペティション「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)2013」のブレンデッド・モルト部門において「世界最高賞」を受賞。世界最高峰のウイスキーとして、マルスウイスキーの名前が知られるようになりました。
バーには、安曇野に工房を持つ星野秀太郎さんが手掛ける家具が置かれ、四季折々のリゾート気分を満喫できます。ウイスキーはもちろん、ウイスキーの樽でエイジングした豆でいれるオリジナルコーヒーも人気です。みなさんも、森のテラスで時間を忘れて過ごしてみては。